『ミニマックス戦略としっぺ返し戦略』
税理士が税務署の課税処分に対して反論し、納税者の権利を守る。しかし、このような戦略は納税者の利益にはならない。そのことを教えてくれるのがゲーム理論であり、ミニマックス戦略だ。税務署と納税者の戦いは、プレーヤーの利得を相殺すればゼロになる「ゼロサムゲーム」だ。ゼロサムゲームでは、ミニマックス戦略を採ることが最も合理的であると、ゲーム理論の生みの親であるジョン・フォン・ノイマンが証明している。
ではミニマックス戦略とはどのような手法か。通常、プレーヤーは自分の利益を最大化する戦略を採用する。対して、ミニマックス戦略では、選択される手法の中で自分の損失を「ミニ(最小)」とする戦略を選択する。簡単に言えば、「勝つ」ことよりも「負けない」ことを考える戦略なのだ。税務調査に例えれば、名義預金や名義株が指摘されたときには、反論ではなく、税務署が納得する妥協点を探すのがミニマックス戦略だ。ゲーム理論によれば、多数のゲームで実験した結果、利益の最大化を目指した者ではなく、ミニマックス戦略を採用した者の方が多くの賞金を獲得している。
この戦略は調査の場面で必要となるだけでなく、税務判断の場合でも有効だ。ある処理が認められた場合の成果を計算するのではなく、これが否認された場合の損失を数える。そして、その損失が耐えられる損失であるか否かを計算する。例えば、「分掌変更退職金の要件を満たすか」と考えるのではなく、「分掌変更退職金の要件を満たさなかった場合」を考えるのだ。「組織再編成の要件を満たすか」ではなく、「組織再編成の要件を満たさなかったらどうなるか」を考える。勝つことではなく、負けた場合の損失を最小化する。それがミニマックス戦略だ。
さらに、ゲーム理論は「しっぺ返し(ティット・フォー・タット)戦略」が有効であることも教える。プログラムは「協調」から試合を開始する。それに対して相手が協調を返すなら、次の回も協調し、相手が裏切るなら、次の回は「裏切り」を返す。多くの実験の結果では「しっぺ返し戦略」は、どのプログラムにも大きくは勝たなかったが、最終的な獲得賞金はもっとも多かった。つまり負けたときの失点が最も少なかったのだ。
税法知識やイデオロギーで勝負するだけが現場ではない。ミニマックス戦略としっぺ返し戦略こそが、ゲーム理論が教える勝利のための戦略なのだ。
(関根稔著「税理士のための百箇条」財経詳報社より引用)
経営者にとって、避けては通れないところに税務調査があります。脱税指南が御法度なことは言うまでも無いが、戦略を持った対応が必要なことはビジネスと同じですね。
ビジネスにおいて、「当たればでかい」とか「ここは賭だ」といった経営判断が連続する危なさは理解するのに、スパーマンではない我々にとって、難しくないでしょう。
これらのゲームの理論は、確立の理論であり、期待値の理論と言えるものです。経営者が感覚的に行動するのではない、論理的な行動への変更を促すものですね。
経営の原理原則も、成功する理論ではない、失敗を最小にする理論と言われています。リスクを最小化する行動を論理的にとる、社員を守る経営者に必要な原則であると思います。
(H25.6.4)